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Skipの公演は、現在の演劇シーンを浜松で体感できる貴重な機会であるかもしれない
劇団Skip!『また逢おうと竜馬は言った』

2004/10/24(日)  福祉交流センター






■「また逢おうと竜馬は言った」を観て(安藤様)
 大きくなったら何になるの?男の子はウルトラマンになりたいとか、〜レンジャーになりたいとか、お気に入りのヒーローの名前を挙げるもの。なれるわけないのに・・・って大人は言わず「そう」と微笑んでいる。でもまだ大人になっても心の中でひっそり想っていたりする男の人っているのかも。この物語は「竜馬になりたい男」の話。
 「竜馬がゆく」をバイブルにし、大きく強く生きたい岡本君。だけど自他共に認める小心者、うだつの上がらないツアーコンダクター。同僚の本郷と妻ケイコの離婚危機を救おうと奮闘するが、自分のことも上手く回らない岡本君に解決のメドはなし。困ったことがあると、彼の空想に竜馬が現れ、叱咤激励されるが大きな事件に巻き込まれ、事態はますます最悪に。ケイコに淡い恋心を抱いた彼は悩みながらも少しずつ勇気を出し、立ち向かっていく。そして最後はケイコに竜馬になりきって決め台詞を言い、見得を切る。この時点で竜馬は消え去り、岡本君は男として人生の大きな一歩を踏み出した。

 キャラメルボックスの人気作品を劇団SKIP8名が一丸となって爽やかでエネルギッシュに演じ、ストレートに受け止められた。<BR>ダメ男が立ち直っていく様は可愛い。土岐敏郎の好演がそう思わせた。飄々と夢を語り、岡本を見守る竜馬の雰囲気に内山博之のイメージがピッタリと合っていた。女性陣も頑張っていたけど、ケイコは岡本がイケナイと思いながら惚れてしまうような人妻の魅力が、岡本をフッた女先輩も憧れるような、凛とした雰囲気が、もっと匂ってくるとよかったかな。ごめんなさい、つい、同性には厳しくなってしまうのかも。会場もキャパの小さいところの方が観客との一体感が生まれたのでは。もっと笑いの部分も欲しかったかな?でも媚ていないのは好きだった。それだけにもっと近く感じたかった。
 NHK「新撰組!」放映中でタイムリー!TVとダブって観れたのは面白かった。
 以心伝心とはビミョーなもの。本郷夫婦が教えてくれた。私もちょっと認めようかな、主人の強情。ちょっと言ってみよっかな、「ありがとう」。
■劇団Skip!の「また逢おうと竜馬は言った」(鈴木拓利様)
 96年劇団Skip10周年公演で上演された芝居の再演。演劇集団キャラメルボックスが92年に初演して好評を博し、何回も再演している演目でもある。東京の小劇場で人気のあるお芝居を浜松で見ることが出来た、貴重な体験になった。

 この芝居の主人公のさえないツアーコンダクターオカモト(土岐)には憧れている偉人がいた。それは坂本竜馬である。同僚のホンゴウ(磯部)とその妻ケイコ(神谷)の夫婦喧嘩に首を突っ込み、薩長同盟を結ばせた坂本竜馬のように、夫婦喧嘩の仲裁をしようとする。オカモトは坂本竜馬、ケイコは長州の桂小五郎、本郷が薩摩の西郷隆盛というわけである。歴史どおり薩長同盟為るか?そこに、ボストン美術館で盗まれた浮世絵を不法に買いつけ一儲け企む貿易商棟方、時田が絡み、ストーリーは思わぬ方向に進む。ちなみに棟方は土方歳三、時田は沖田総司のメタファーである。幕末の歴史と重ね合わせながら、オカモトに感情移入をしながら次第に引き込まれていった。

 キャラメルボックス史上「最も発汗量の多い芝居」と言われているそうである。出演者のテンポのある動きを見ながら、そのわけが良く分かった。
 場面がめまぐるしく変わっていく。バックスクリーンに当てる照明の色を変化させ、キャスター付きの台を使い、空間を部屋の中から、公園、空港と変化させている。映画のカットバックのような効果があった。2時間ちょっとの上演時間が短く感じられた。
 「志士ハ溝壑ニ在ルヲ忘レズ勇士ハソノ元ヲ失フヲ忘レズ」 それは、竜馬が、想いを寄せていたさな子に言った別れの言葉だった。オカモトもラストシーンで、ケイコに同じ言葉を言った。彼女が本郷と仲直りをすることが幸せだと思い、はかない恋心を断ち切るシーンが印象に残った。

 オカモト役の土岐敏郎の熱演が印象に残っている。せりふにテンポがあり口跡がはっきりして気持ちが良い。感情が先に立ってせりふが上滑りにならず、せりふがはっきり聞き取れた。せりふを聞き取れることによって、オカモトの心情が手に取るように理解できた。オカモトの腰の引き加減、ダメさ加減が演技とは思えないほどはまっていた。

 公演のパンフレットの「劇団の歴史」によると、東由多加・鴻上尚史・成井豊等の脚本家の芝居が上演されている。私のように演劇にさほど詳しくなくても知っている方の作品である。東京の評判を博した作品が浜松でも観劇できるということを知り、嬉しくなった。Skipの公演は、現在の演劇シーンを浜松で体感できる貴重な機会であるかもしれない。


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